きみはベツレヘムの星じゃない|ジュンひよ
ごとりと寮の部屋の隅に置かれたそれは、ちいさなクリスマスツリーだった。
「ジュンくん、なぁにこれ」
「や、……親から送られてきて」
言葉を濁すジュンは、すこし戸惑っているようだった。聞けば特に連絡もなく突然段ボールが送られてきたらしい。意図を聞くのもめんどうくさいし今はSSで忙しいですし……て早口でまくしたてるさまは明らかに言い訳じみている。
聞こうか聞くまい帰る一瞬だけ考える。親のことは、家族のことは、簡単に踏み入っていいものではないだろう。そう、と短く返して、棚に飾れるぐらいのちいさなそれの頂上には黄色の五芒星のかたちをした折り紙が飾られていた。
「これ、ベツレヘムの星じゃないんだね?」
「ベッ……ツ……? ム……リ…………?」
「クリスマスツリーにあるお星さまのこと。キリストが生まれたときに見た星。もっとトゲトゲしたの見たことない?」
「ああ……そういえば、あるようなないような。さすが、おひいさんは博識ですねぇ〜?」
「普通に知ってることだからね! ぼくと一緒にいるなら教養身につけようねジュンくん!」
「──たぶん、おふくろが買ったときはついてたのかも知れません。その折り紙はおふくろがオレが親しみやすいアイドルになれますようにって祈りも込めて、手作りで折ったんです」
「そうなんだね。それは、」
素敵な思い出だね。
ジュンの母親はキリストだけが見た星でなく、誰でも近くにいて親しめるような星であることをジュンに願ったということだ。ひとりにならないで、みんなに寄り添うことができるアイドルに。
折り紙の星は光らないし形はすこし崩れているが、たしかに日和が知らない愛のかたちをしていた。それはとても眩く日和のひとみに映る。
「もうボロボロなんですけどねぇ。捨てられないんです」
「うん、捨てなくていいと思うね。ジュンくんはこの星みたいになるんだから」
「あんた古いもの大嫌いなのに珍しい。あとボロボロな折り紙になれってのは嫌味ですかねぇ〜?」
「今回は特別だね! それに嫌味じゃないし、むしろ褒め言葉だねっ」
古いものはきらい。
でも愛と平和を願うものとして、そこに愛があるものなら話は別だと、母の愛をまだ素直に受け止めきれないジュンには伝えないままで。
このツリーを囲ってパーティをするねと伝えると困ったように眉を寄せていたジュンも、やがて、やれやれとため息をつきなからも口元を緩めるから。
きっとこの家族の未来は暗くはないのだろうと、愛を見た感想を日和はそっと胸に秘めた。
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