2020.02.22 14:54後悔|いちくう 思い返せば、小さなからだに甘やかされていたのはいつだって一郎のほうだった。 相棒と呼ばれ始めたのも、なんとなく、いつも兄と呼ばれ兄として生きている自分を、ほんの一瞬だけそうじゃない存在にしてくれる時間を、呼び名と共に与えてくれていたのだろう。空却といる時だけ、大事な弟たちの兄であるという冠をとって、ただの一郎としての時間を過ごせていた。...
2020.02.10 15:06『もし、』|十空 人と神さま、大人と子ども。ありとあらゆる境界に立つ、中庸のひと。しばらく経って空却に抱いたイメージは、出会いのそれよりもだいぶ変わったように思う。 最初はカッコいいと純粋に憧れていたのが、少し危うい一面も見えてきて、そして今は、彼の多面性が恐ろしくもある。その分空却を知れているということでもあるから、十四にとっては嬉しくもあるのだが。 ...
2020.02.10 15:04涙|十空 三ヶ日が過ぎてからようやく落ち着いた空却に十四は呼び出された。寺の仕事で年末年始は多忙だとだいぶ前から聞いていたし、十四も今年は同じ時期にライブが決まっており、年越しもバンドメンバーと共に過ごして一日ですらライブをしていた。その日のライブで行っていたツアーも千秋楽を迎え、二日はメンバーと初詣に行き打ち上げを行い、帰ってからは泥のように眠...
2020.02.10 03:38「チョコレート」「甘い」|十空 修行で空却の家に来る時に、十四はよく差し入れを持ってきた。ファンの子からプレゼントされたりおすすめされたりで流行りのスイーツに詳しいらしく、父親もあまり口にしない洋菓子を喜んで受け取っていた。 僧侶見習いとは言えど、それほど食生活に厳しいご時世でもない。空却もたまに商店街で買い食いしたり、顔見知りのお店からはもらったりしていて、食べたこ...
2020.01.20 06:13委ねてあげる|十空 十四が空却のもとで修行するようになってから、きっかけはもう忘れてしまったが、伸びるのが早い空却の前髪を整えるのがいつしか十四の役目になっていた。 ぼんやりと、わざわざ美容室に行くまでもないしなあ、と呟いたの覚えている。そういえば通っている美容室だって十四が紹介キャンペーンをしていてすごくいいからとおすすめされて同じ美容師にしてもらうよう...
2020.01.05 12:32お題:初めて|十空 ナゴヤという地に生まれながら神社仏閣とは無縁な人生を送っていた十四にとって、空却は新しい世界の扉そのものだった。 それこそ出会わせてくれた獄の時と似ている。虐められていたころは、状況を打破する方法も救いを求めるやりかたもわからなくて井の中の蛙そのもののように、上から誰か手を差し伸べてくれるのをずっと待っていた。誰かが助けてくれるか自分が...