いぬ|ジュンひよ

「……っ、ちょっと待って」
 ベッドの上で、いつもの待つね、なんて口調で取り繕う暇も与えてくれないぐらい、早急な仕草だった。久しぶりだったから、さんざん仕事中にいたずらのように目を合わせたり肩や手を触れ合ったりして──それはEveとしての仕事でもあったのだけれどとにかくジュンを刺激することはした──ので、この飼い犬に待てが効かなくなるのも、自分の魅力を考慮すれば致し方ないことなのだ。
 しかしながら、出会って一、二年ははっきりとした物言いをすれば、眉一つ動かさず、しかしどこかしゅんとして引き下がってくれていた。うな垂れた耳を幻を見てしまうことだって少なくくて、それを微笑ましく思っていたりもした。なのに。
 躾も言われ続ければ効果がなくなってしまうのだろうか。ここ最近は個人での活動も軌道に乗ってきていて離れ離れなことも多いからか、待ても辞めてもなかなか効かない。かと思えば、眠くてしょうがなくて駄目、と言った時は潔く引き下がるという本音と建前に対する嗅覚も無駄に鋭くなっていけない。本当に嫌な時を、本能で掬い取っているのだ。
 そんなことをキスの合間に考えているとあからさまにジュンの眉に皺が寄る。
「……あんた、さっきから上の空で何考えてます?」
「ジュンくんのこと考えたけど」
 金色に光る瞳の奥に宿った炎が見えた気がした。ちりちりと燃える音が聞こえてきそうなほどに、視線が痛く熱く突き刺さる。
 シャツのボタンを解かれて、本当は別にそこまで嫌じゃないというか割と自分だって乗り気だったのだけれど、さっきまで飼い犬がどうとか思っていたせいか思わずその言葉で出てしまった。
「駄目だね。ジュンくん、ステイ!」
 ぴたっとジュンが固まったのは、日和の指示に従ったのではないのだろう。どちらかというとそんなこと言われるなんて思わなかったといった表情だった。考えが読み取れないその固まり具合に、なんだか悪寒がした。
 首筋に顔を寄せ、はあっとため息を吐く。息の感触が擽ったくて思わず身を捩る。それに味を占めたのかもう一度、今度はもっと深く息を吐かれた。ぞわぞわと首筋にあたる生暖かい吐息に、思わず身の毛がよだつ。
「──あんたさぁ、セックスまでしておいて、いつまでオレを犬扱いするつもりなんですかねぇ……?」
 だぁいぶ、頭にきているらしい。
「ふざけんなよ……、……って思うんすけど」
 後でとってつけたように付け足された敬語はほぼ意味を為していない。やっぱり彼にはまだまだ躾が必要なようだ。
 でも、その前に。
「目の前にいるのがあんたと同じ人間だってこと、教えてやりますよぉ〜……!」
 飼い犬ではあるのだけれど、まだまだ伸びしろのある相方として見ていることも、きちんと教えてあげなければなと思う。
 今日の夜を、待ちわびていたことも。

walatte

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