半分が昇る空|とおまど

 数分前にレジに並んでいた浅倉は会計を終えたらしくドアの先でコーヒーを飲みながら待っていた。樋口も常備しているのど飴と、ホットココアを買ってコンビニを出た。
「お待たせ──……、何」
「あんまん」
 手渡されたのはさきほど店に入った時に「うわ、でかい」とそんな驚いてもなさそうな声で浅倉が見つめていたビッグあんまんというものだった。通常売ってあるあんまんの二倍サイズとなっている。とても食べきれないと言う顔をしていたが、どういう風の吹き回しなのだろうか。
「綺麗に割れてるでしょ。半分こしたお月さまみたい」
「……齧り付いたの?」
「ちゃんと裂いた。丁寧に」
「たまたまでしょ。……なんで買ったの。食べきれないのに」
「食べたそうにしてたから」
「……私が?」
「見てたから。あんまん」
 見ていたのは浅倉が話題にしたからだ。でも確かに、食べるには量が自分一人ではきついと思った。寒くて買うつもりだったココアとセットでと考えると、余計に。
「結局買ってないけど」
「ココアとだと甘くて食べきれないなーって辞めたとか」
「……正解」
「ふふ。いえーい」
 コンビニの前はバス停になっていて、ベンチがあった。レッスンと仕事で遅くなったこの時間帯、誰いないベンチにふたりは腰掛けた。中身のない雑談をしながら、半分に割れたあんまんをそれぞれ平らげる。
 先に食べ終わった浅倉が「あのさ、」と淡々と切り出した。
「見てるから。樋口のこと」
「……」
「樋口はさ、見てないかもだけど。私は、見てる」
 そうだね。
 少なくとも私はみんなみたいには見てない。私だけの純度で、角度で、距離で、浅倉透を見ている。
「ちゃんと見えてるんだか」
「えー。あ、そうだ」
「何?」
「誕生日おめでとう、樋口。あんまん、誕生日プレゼント」
「……もう半月前なんだけど?」


walatte

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