綺麗に包める気持ちなわけがない|ジュンひよ

「たぶんオレは地獄に行くと思うんです」
 具材を餃子の皮で包んで、木の葉のかたちにしていく。
 珍しく仕事も学校もないオフの日に、時間を持て余したオレが夕飯にと寮のキッチンで作り始めたところに、仕事を終えたおひいさんがやってきた。
 突然のようにおひいさんは手伝いひとつもせず、オレが具材を作り、皮に包んでいるのを頬杖をついて物珍しそうに見ているだけだ。
 BGM代わりにスマホから低予算が売りなB級ドラマを流していた。別に知り合いが出ているわけでもなく、静かよりはいいかと流していただけで興味があるわけではなかった。日和も止めるように言ってはこなかったが、視界にも入れていないようだった。そのドラマから天国だの地獄だのというワードが流れてきたのだ。そして冒頭に戻る。
 オレはたぶん天国には行けない。わかりやすい悪行を成し遂げたわけでもなんでもないが、それなりに世界を呪ってはいた。
 オレがいまこうして明るい世界にいられるのは、目の前にいるおひいさんが手を差し伸べてくれて、それにオレが必死でしがみついた結果だ。
「あんたは天国に行くんでしょ」
「ううん、逆だね。きみは天国で、ぼくは地獄」
「あぁ?」
 思わず優しくない相槌を打ってしまう。
 だって誰が巴日和を知って、こいつは地獄に行くなんて思うのだろうか。しかもおひいさんは自分のことは自分が完璧に理解していると断言するようなひとだ。自分のことを誰よりも深く理解している。
 そんな人が、オレを路地裏から引っ張り出した眩しいひとが、なんだってそんなことを言うんだ。
 ちょっといらっとしてしまい、強気にオレは否定する。
「いや、あんたは天国で、オレは地獄です」
「いやいや、逆だって言ってるね」
「だからその逆なんすけど……。なんですか? あんたらしくもない」
 調子が狂ってうまくヒダを寄せられず、ただ包んだだけの餃子もどきがひとつできてしまった。これは責任持っておひいさんに食べてもらう。食べるつもりでここにいるのだろうし。
「悪いことを一度でもしたら地獄に行くのなら地獄だって、シンプルな話だね。事実を述べてるだけだね」
「……、わかりましたよ」
「うん」
「じゃあどっちでもいいんで。オレはおひいさんの行くほうに着いてってあげますよ。あんた、寂しいのだめなひとですから」
 地獄で大声出されたら恥ずかしいですし。生前の関係者として。
 おひいさんは頬杖をついたまま、ちょっとだけ黙った。「死んでも一心同体なんだね?」と確かめるように首を傾げた。
「天国だろうが地獄だろうが、あんたが望む限り隣で歌ってやりますんで」
 じゃないと周りのひとに迷惑かけそうだし、こんなひとに付き合える人間もなかなかいないだろうし。オレはオレで、それがもう当たり前になってしまっていて。あの世でもその当たり前がない時に、どうなるか判らない。
「お世話もしてね」
「今も現在進行形でしてるでしょ……。にんにくとニラ抜いたやつ作りますか?」
「うん、お願い。あっ、駄目だね。具材味見してるおくちは駄目だね! 歯磨きしたらしてもいいね!」
 近づいたらすぐに察して押し返される。こう言う時のおひいさんは察しが良すぎる。オレがわかりやすいのか。どちらもあるのだろうけれど。
「んじゃあ絶対後で」
 待てない気持ちを隠さず約束を取り付けて、じゃあ代わりに何を入れようかなと冷蔵庫を開けた。「歯磨きするならすぐでもいいよ」と後ろから声がして、えっ、と振り向いたら満開の花みたいに微笑んでいるおひいさんがいた。

walatte

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