こいびとみまん×→?|ジュンひよ
田舎でのロケの途中、休憩時間になると気がついたら日和がいなくなっていた。
油断するといつもこうだった。ジュンはスタッフに時間までに戻ると告げ、スマホを電話をかけながら走り回る。土地勘もなく、電波も強くないこの状況でどう探すんだよと途方に暮れた。これがESの近くだったら日和の行きそうなところに心当たりがあったのにと思う。
田んぼだらけの道を走り続けた。行くあてなんてないから、探す量だけが頼りだ。探して、探して、探し続けて。見つけたら見つけたで、よくここが判ったね、なんて軽々しく言って口元をつり上げるのだろう。判ったんじゃなくてただ探し回っていることを知っているくせに。
きっと試されている。日和のジュンには理解し難い言動は、けれど意味のないことはひとつもないと、それだけは理解していた。お気に召さない振る舞いをすれば即、切り捨てられるのだろう。そう考えると、また一度も相棒を辞めるなんて発言は気まぐれでも冗談でもされたことがないので、善処していると言えるのかも知れない。
「ねぇ、さっき駄菓子屋にいたのおひいさんじゃなかった? Eveの」
「えっ、こんな田舎に? そんなわけないじゃん。ジュンくんもいなかったんでしょ?」
「いなかった」
「じゃあやっぱ違うわ」
「確かに」
道すがらすれ違った女子学生の会話だった。深めに被ったキャップのせいか彼女たちは全くジュンに気づいていない。駄菓子屋で検索するといまは見えないが少し先に古くからの老舗があるらしい。種類が豊富なのとレトロな外観が人気で、ちょっとした観光地になっているんだとか。
「ジュンくん! 遅いねっ」
予想よりも厳しめの結果だった。日和は木造のちいさな駄菓子屋の前にある、もう薄くなりつつあるピンクのペンキで塗装されたベンチに座っていた。
「ジュンくんジュンくん!」
日和はレジ袋を持っていた。どうやらすでに気になったものを買い占めたあとだったらしい。
「このアイス六十円なんだって! 価格破壊だね。ぼくを探してた汗だくのジュンくんにプレゼントしてあげるねっ。感謝するといいね!」
「あぁ……うぜぇ……。いただきます」
ここまで走ったのが六十円かと考えると虚しさが込み上げるが、いざ食べてみると濃いめのミルクの味と控えめな甘さが食べやすくて一瞬で平らげてしまった。育ち盛りだねえ、と呟きながら日和は袋からまた別のものを取り出した。
「ジュンくん。これが何か知ってる?」
日和が取り出したのは、縦長のアルミホイルだった。小さな粒のチョコがアルミホイルから浮きでたプラスチックの中に詰められていて、縦と横に並んでいる。幼いころ買って食べたことがあった。
「プチプチうらないです。チョコ取り出すと、この見えない場所にマルとかバツとか結果が書いてあるんですよ。どれかやってみたら判りやすいんじゃないですかねぇ?」
「んー……じゃあ『おかいもの』にするね」
ぷちっと押し込んで裏面のアルミホイルを突き破り出てきたチョコを口に運んだ。チョコがなくなり見えた部分には、
「◎だね!」
「まぁ……たくさん買ってますしねぇ〜。他は?」
「デート……は、これも◎だね!」
ぱくっと日和はデートのチョコも口に入れた。
「へぇ〜。予定ができるんすかねぇ」
「今じゃないの?」
日和は当然のように目を瞬かせて聞いてくる。ジュンは一気にわからなくなった。今は、……そうなのか?
「な、なんか他の見てみません? そしたらデートの意味も判るかも」
「こいびとみまんは×だって。よくないんだね!」
「こ、こいびとみまん」
こいびとみまんの占いってつまり×のがいいのだろうか。考える隙も日和は与えてくれず次の結果を告げてくる。
「こいびとは◎!」
「あぁ….…つまり恋人未満じゃなくなって恋人になるってことっすかねぇ〜?」
「ジュンくんは、そう思うの?」
「え? まぁ、はい」
「じゃあ、」
この占いを、ほんとうにしてほしいんだけどな。
日和のしろいてのひらにあるふたつのチョコレートの粒。こいびとみまんとこいびとの。それをひとつ摘み、日和がジュンの顔を近づける。体が日和に支配されたみたいに、勝手に口が開いた。
立て続けに放り込まれ、ふたつのちいさなちいさなチョコはジュンの口のなかですぐに溶けた。ふふ、と日和が目元を緩めた。すごく機嫌がいいのだと、うまく説明できないけれどジュンには判った。
この先に何が求められているのか、理解していた。
ベンチの隣で座っていれば意外と距離は近いものだ。口内にチョコの味を残したまま口付ければ、日和からも同じ味がした。
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