きみのせい|ジョンひよ


 七歳の誕生日だったと思う。
 なんとなくサンタの存在について疑問を抱き始め真実が見え始める時期だった。
 その頃はまだ日和も子供ながらにアニメや特撮のヒーローものを楽しんでおり、ヒーローの武器が欲しいとひっそりと祈っていた。
 ところが楽しみにしていた靴下の中に入っていたのは、陶器だった。形からして花を生けるためのものだろう。
 最近習い事を始めた華道が楽しいと両親に話してきたのは十日前だったのを日和は覚えている。サンタが誰なのか、子どもでもすぐに推測できることだ。
 兄は日和が欲しがっていた特撮ヒーローの剣を貰って喜んでいた。
 あれは自分には与えられないものなのだ。子どもながらに悟った。
 それから、アニメや特撮からは遠ざかって、代わりに紅茶を飲み、本を読むようになった。華道も続けた。兄と全く違う道を進み始めた自分を見て、両親は「ふたりとも趣味が違っていいわね」なんて笑っている。
 もちろん自分が好きだからこそ華道も紅茶も嗜んでいる。けれどたまに、あのまま兄と同じ嗜好でいたらどうなっていたのだろうとは思う。どうしようもないイフを考えてもどうにもならないので、そこ思考はすぐに終わってしまうのだけれど。
 兄は巴家の跡取りとして育てられ、日和は放蕩息子として指をさされる。そんな立ち位置がだいぶ前から出来上がっていた。それは周りが望むかたちであったし、日和自身も、それで満足している。
 自分がいちばん呼吸がしやすい場所は、すでに見つけていた。
「あんた、何が欲しいです?」
「何って何?」
 日曜日の午後、ESビルの近くにあるパン屋に並ばせていたジュンが帰ってきて、スコーンをオーブンで暖めながら紅茶を淹れていた。期末試験中のジュンはこのスコーンと食パン、お昼のお茶会の等価交換として、この後の試験勉強を教えるよう約束している。
 本当は交換条件にする理由は何もないのだが、追試になって補講や再試験でEveとしてレッスンする時間が減るのは許されない。どのみち頼まれなくても日和はジュンの勉強を見るつもりでいたが、それは言わないでいる。
「あんたが寄越せって先週ぐらいから挨拶みたいに言ってるやつですよぉ〜……」
「ああ、クリスマスプレゼント」
 判っている。あえて聴いてみたのだ。
「自分で考えてみなさいってぼくはいつも言ってるよね」
「う……あぁ〜はいはい判ってますよぉ〜。結果応えられないものでも機嫌悪くしないでくださいねぇ?」
「それは当然、悪くするに決まってるね!」
「うぜぇ……」
 小皿に焦げ色のついたスコーンがテーブルに置かれる。慣れた手つきで、次は紅茶。ここのスコーンはバターが入っておらず、味がしつこくないけど食感はきちんとスコーンのそれでとても美味しい。
「きみが、ぼくが喜ぶだろうって思うものを準備してね」
 ジュンは困ったように眉を顰めた。クリスマスまで律儀に自分の喜びプレゼントについて思考を巡らせる彼を思い浮かべるだけで自然と笑みが生まれる。
 ──ジュンくん。きみは本当に──

 何を選んでくるのか、その結果ももちろん大事だけれど。自分のために、大事な時間を消費して自分を思ってくれるだけで、充分なのではないだろうか。
 そう考えられるようになったのは最近のこと。ジュンという真逆の人間と一年以上生活を共にしていれば、相手の影響を受けたっておかしくない。自分の変化がジュンによるものなのかどうかなんて確証はないけれど、所帯じみてきているのは間違いなく彼によるものなので。
 クリスマスに彼がとんでもなく見誤ったプレゼントを用意してきたとして。それで自分がけらけら笑いながらも彼を許せてしまったら、きっとそれは彼のせい。

walatte

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