昨夜の縫い目|ジョンひよ

 眩しさにそっと瞳を開ける。カーテンの隙間から入った朝の日差しはすでに高く上り始めており、もう昼も近い時間らしい。
 ぼくは見慣れない天井をじっと見つめながら、昨夜の出来事を反芻する。
 いつも通りのEveのグラビア撮影の仕事が予想以上に押してしまって、寮から遠かったことと明日の現場がこちらに近いこともあって、急遽茨にホテルをとってもらった。ジュンくんは玲明学園に休みの連絡を入れていた。
 ホテルの部屋は茨が手配しただけあって近場でで一番有名なホテルのスイートルームだった。ジュンくんは普通のビジネスホテルがいいと嫌がっていたけれど、ぼくがそれを許すわけがない。最上階にあるレストランでコースを食べて部屋に戻るころには何か様子がおかしかった。
 酔ってるな、と気がついたのは戻ってすぐに押し倒された時だ。お酒は一ミリも飲んでいない。コース料理だったりスイートルームだったり普段なら触れることのない雰囲気に当てられてしまったのだろうと思う。実際まだキスしかしていないのにジュンくんははっきりと興奮していた。ぼくの膝にそれを押し付けてくるなんて滅多にしないアプローチをしてくるあたり、相当やられている。
 頬は紅潮し、吐息はしっとりと湿っている。これはキツく言いつけて止めるべきだろう。このままされるがままにしていたら、最終的にいちばん強く後悔するのは正気に戻ったジュンくんだ。
 実際、Eveでのライブを軽々とこなせるぐらいの体力と、そして踊って歌うための筋力はあるのだ。その気になればジュンくんを無理やり解くことは可能だった。
「ジュンくん、」
 肩に手をかけると分かりやすく震えたのが伝わってくる。
「はい」
 返事はびっくりするぐらいに掠れて、甘かった。
「…………、あのね」
 なんだかそれを聞いたら、どうでも良くなってしまった。自暴自棄になったのとは違う。肩に置いた手から彼を引き寄せる。吸い込まれるようにぼくへ落ちてくるジュンくんの顔がどんどん近づいていく。怒られると予見していたらしく見開いた目は可愛い反応だなあと満足できたので、まぁいっか。
「好きにしていいよ」
 場に酔って自制できなくなるぐらいぼくに虜だと言うのなら、それはそれで、悪くないので。
 買い出しに行っていたらしいジュンくんは部屋に戻ってきてぼくと目が合うなりみるみる顔を青くしていった。記憶はあるのだと知る。
 さきほど鏡で見ただけでも数えきれないぐらいの噛み跡があった。ぼくも途中から記憶も意識がない。
 抱き潰してしまった事実、それによる罪悪感。顔に描いてあるよって言いたくなる。
「おはようございます、おひいさん」
 うん。こういう時も挨拶を欠かさないのはぼくの躾の賜だね。
「……あの、」
「謝ったら怒るね」
「……へ?」
 ベッドに横になる。
「昨日何したのか教えて。ぼく途中から記憶がないんだよね」
「いや、オレ、結構無理やり……自制できずにあんたを貪ったんですけど、怒るのはそこじゃないんですかねぇ……?」
 ジュンくんは心底不思議そうに、ベッドに入ってくる。
「だってそれだけ、ぼくの虜ってことでしょ? いいこだね」
 ぼくが満足そうに口元を緩めてみれば、反論の言葉を持たない虜なジュンくんはやれやれといった様子でため息を吐いた。
「どろどろになってたおひいさんを事細かく説明してやりますよぉ〜……」
「ワオ! それは楽しみだねっ」
 でもその前におはようのキスぐらいして欲しいってねだると「はぁ?」ってさっきの青さが嘘のように真っ赤に染まった。それ以上のことを、何回もしているのにねって、ぼくは今度こそ大笑いしてしまった。

walatte

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