風船、飛んでかないで|やまえじ
たまに大和は突拍子もない行動をする。
言葉より行動のほうが速い人だから、あとで理由を聞いてようやっと納得できる行動がちらほらあって、今日もとつぜん部屋に入ってきたと思ったらベッドのうえに連れていかれて、後ろから抱きしめられたまま数十分経つ。
お喋りするのもスマホを見るのもOK。でもこの腕から出るのはNG。一度出してくれないかと腕に触れたら逆に力を強められて、一瞬潰れるんじゃないかと本気で思ったけれど、俺が抵抗しないのを確認するときちんとちからを緩めてくれた。
「なにかあった?」
シャイニング事務所や共演者のSNSを一通り更新分確認し、いよいよ手持ち無沙汰になったところでたずねてみる。肩に埋まった頭からは大和の汗のにおいがして、あんまりこれ以上この体勢だと、俺のほうが持ちそうにない。今日がオフなら勢いに身を任せてこのままベッドで過ごしてもよかったが、あいにく午後から仕事が入っていた。
「ゆめ、見て……」
それは大和も承知していたことだ。だから素直に話してくれるだろうと、俺は確信を持って聞いていた。予測通りだった。
「どんな?」
「えいじに羽が生えて」
「うん……え?」
「ふわふわふうせんみたいに飛んでって……行きたくないって手伸ばしてたのにつかめなかった」
「えっ……俺どうなっちゃったの?」
「わかんねえ……みえなくなった」
「ええ……!」
その俺一体どうなってしまったんだろう。好きな人から羽のせいで地面につけなくて離れ離れになって雲を越えてひとりで浮かぶ俺を想像したらぞっとしてしまう。
「つーわけで……もうちょっとだけ。いいか?」
「うん。いいよ、全然いいよ」
筋肉質な大和のからだは触れているとわかるけれど常人よりもずっと温度を持っている。網戸から漏れてくる秋の冷たい風もおかげで全く気にならない。なんだか湯たんぽみたいだなと笑みが漏れる。気づいた大和が、なんだよ、と顔を目の前に持ってくるので、そのまま顔を近づけて影を重ねた。
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