夏はきみで、一等星|ジュンひよ

『夏みたいな、人ですかねぇ』
 そう書いてあったのは先月のティーンズ向け雑誌であったジュンの単独インタビューだった。コラムも連載しているジュンは、Eveで新曲の発売も兼ねて別途インタビューを受けており、それには珍しくジュンがひとりで呼ばれた。
 日和が避けられているのではない。ジュンが本人がとくべつスタッフから好感を得ているようで、本来はコラムの隅にちいさく紹介文を載せる予定だったのが急遽、二ページに及ぶグラビア付きのインタビューになったと茨より報告を受けた。
 ジュンだけの仕事も日和はなるだけチェックするようにしている。相方個人のパブリックイメージはリーダーとして理解しておかなくてはいけないし、話題にするとファンは喜ぶ。そして何より──自分が話題にされているのをしばしば発見するのが、単純に嬉しいからだった。
 事務所にある休憩室のソファで、夏のような人、と書かれた文字をそっとなぞった。先輩であり相方の日和さんをどう思いますか、なんてありきたりな質問の回答。自分は当の本人で読んでいて面白いのだが、きっとインタビュアーは尊敬してますとか好きだとか、そんな質問を期待していたのだろうに、この子ときたら。ことわざの使い方を誤っていたり、たまに要領を得ていなかったり。頭は良くはないけど根は悪くないので、それさえもファンは受け入れている──むしろかわいいと喜んでさえいる。記憶力が良くて一貫性のあるコメントをファンから求められる日和とは、正反対のありかただ。だからこそ、ふたりがユニットを組むことで誰にも予測できない化学反応が生み出せるのだろう。
 記憶力がいいと、他のひとには気づけないことにも気づけたりする。
 雑誌を読み終わりジュンと合流し仕事へ向かう。ファンクラブ向けの動画を撮影しており、EdenではなくEveで、募集した質問に答える企画だ。撮影が始まり、早速ジュンがメールできた質問を読み上げている。
「ジュンくん、日和さま。こんにちは。はいどうも、こんにちはぁ〜。早速ですが、好きな季節はいつですか? 私は冬が好きです! コタツに入ってアイスを食べるのが大好きだからです。……だ、そうです。おひいさんはどうですか?」
「ぼくは春夏秋冬、どれも好きだね。紅茶に合わせるケーキが季節によって変わるのが楽しみだね!」
「あんたこんなことしてるからぷにぷになんでしょう?」
「ジュンくんだって苺のスイーツを春先になるとコンビニや洋菓子店でたくさん買ってるよね?」
「オレはちゃんと運動してますし」
「はいはい、いつもの筋トレね。……でもあえて好きな季節を言うなら春? 色んな出会いや別れがあったのを、桜とともに思い出すんだよね。同じ一年なんかないって、振り返るいい機会だね」
「へえ〜。オレは夏が好きですけど」
 瞬間、事務所で読んだインタビューの記事が思い起こされる。ジュンくんは全く意図していない、あの回答なんて忘れてしまっているようで、ぺらぺらと理由を述べている。
「もともと夏がいちばんだったんすけど、Eveで夏の曲作ってもらってから一等好きになりましたねぇ。あとテニス、夏はキツいんすけど木陰のベンチからコート眺めるのなんか好きなんですよねぇ。めらめら燃えてるじゃないですか」
「……陽炎?」
「あぁ、たぶんそれです。って、あんたなんか機嫌いいです? 夏、おひいさんも好きでした?」
「いまもっと好きになったかもね」
「? はぁ」
 嘘がつけないジュンだからこないだのインタビューは間違いなく本心で、けどそれが頭からすっぽり抜け落ちてしまっている彼が自覚するのはこの動画が配信されてファンが騒ぎ出してからだろう。茨にはよくやりましたねぇって褒められるに違いない。ふふ、と自然と笑みが漏れる。ジュンくんは眉を顰めていた。
「……ジュンくん、もう一回聞いてもいい? 夏はだいすき?」
「え……あぁ、はい。だいすき……ですかね」
「うんうんっ。百点満点の回答だね。いい日和!」

walatte

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