着せ替え|ジュンひよ

 久しぶりにMVの衣装を着て歌ってみようという企画は、大成功のまま終わった。サマーライブは、最終的には苦々しい出来事が多いSSに繋がっているから茨も懸念していたが、Eveだけでの歌唱というのもあり、生放送でも大事なく出番は終了した。
 長丁場の歌番組で、他のアイドルも同様の企画に参加している。次の出番まではだいぶ時間があるから楽屋に戻ることになった。
 ジュンは思ったより窮屈に感じない一年前は頻繁に着ていた衣装にほっと胸を撫で下ろしていた。日和に可動域がと注意されながらも筋トレはずっと続けていたし、多少自分でも重くなった感覚はあった。
 楽屋のソファに座ってスマートフォンを触っている日和は機嫌よさそうに口ずさんでいる。「出番になったら呼んでね」と呑気に命令して、夢中になって眺めている先は恐らく放送中動いている歌番組のSNS公式アカウントの反応だろう。つい先ほど歌い終わったあとに、コメントを求められて動画を撮った。事務所のチェックが終わり次第すぐ投稿しますねと話していたが、コズプロの事務所は仕事が早い。もう投稿されて、反応が見れる頃合いだろう。
「あんたさぁ〜……」
「え〜なに?」
「なにかオレに言うことありません?」
 一年ぶりぐらいに着た衣装、Eveとしての活動。ジュンとしてはテレビ出演もあって、過去との差異を見せつけたくて意気込んでアピールした一曲だった。
「あはは! そうそう、ジュンくんファンサもダンスのアピールも熱烈だったね。必死でかわいいって言われちゃうね」
「……それ以外の感想は?」
「ちゃあんと成長してたよ。でもぼくからの称賛を欲しがるあたり、まだまだだよねぇ……」
 だって、特別でずっと隣にいる相手には誰だって少しでも強く眩しくありたいものじゃないか。
 ソファに日和を押し倒して上に乗って、がっつくみたいにくちびるに自分のそれを押し当てる。
 近づくと花が咲くみたいにふわっと日和のにおいが香る。シャンプーも香水も流行に合わせて帰る日和だが、ジュンにはどうしてかいつも同じものにしか思えない。きっとシャンプーかどうかじゃなくて、日和自身に惹かれているからだ。本人には言ってやらないけれど。
 腰に手を伸ばすと腹部の柔らかさ眉をしかめる。日和は珍しくしまった、と動揺していた。
「あんたは一年前よりパフォーマンスも体重も成長したんですねぇ〜……? おひいさん?」
「たまたま昨日スイーツバイキングに行ったからだね! 失礼だね! 明日には元に戻るねっ」
「どうだか」
「なにその言い方! 冷たいね〜。まぁでも、こうやってたまに着るのは楽しいからまたしたいね!」
「一年後、二年後……五年後、十年後、って?」
「そうそう! その度にきみがどう成長しているのか見てあげる」
「……ちゃんと見ててくださいよぉ?」
 ぐいっと顔を引き寄せられてキスされる。
「見てるよ、いつも」
 耳元で囁かれた声はどろどろに甘い。あからさまな誘いの言葉に、ジュンは応えるように首元に吸い付いた。

walatte

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