思いやりを天の川にのせて|日和とジュン

 茨による謀略により陥れた相手に嫌われて初めてジュンの前で日和が泣いた日、ジュンは夕飯に素麺を茹でた。
 庶民の食べ物で、夏の風物詩で。ジュン自身も罵声を浴びせられたのだから疲れていて、簡単なもので済ませたいのだろう、と最初は思っていた。ただ皿にのせられた素麺の上にあるみょうがの量が向かい合わせにあるジュンのより格段に多いのを見て、ジュンの意図にはっと気づいたのだった。
 日和が記憶力に長けているのをジュンはとっくに知っていた。辛いことも忘れられないなんてキツいですねぇ、なんて前に呟いていたのを覚えている。それにそれよりもっと幸せなことをたくさん覚えているから大丈夫だね、と答えれば、別世界の人間の見るかのように遠い目をされた。
 記憶力がいい日和はもちろん教養もあり、みょうがをたくさん食べるともの忘れをするという言い伝えがあるのも知っている。日和は満面の笑みで素麺をみょうがとともに平らげた。その日にあった辛いことは忘れられないままだけれど、ジュンの思いやりのほうが日和にとってより深く刻まれた思い出となった一日だった。
 その日が七月七日で、素麺の日、と呼ばれているのを知ったのは、一年後の今日に寮でジュンが流しそうめんをしませんかと目を輝かせながら提案してきたからだった。

walatte

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